認知症老母の介護(江戸の現場から)

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認知症老母の介護(江戸の現場から)

以前に読んだ、江戸後期の随筆『思齊漫録』(文政2年 中村 弘毅著)の中で、認知症の老母に対する、江戸中期文人(亀田窮楽 1690~1758)の逸話が、とても印象に残りましたので皆様に紹介します。

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 某友の話に、窮楽といひしは、書をもよくして名高き人なり。(京都)堀川それの所に住せしとき、母は老いて病にふす。客来りとひて、次の間にて、窮楽とものがたりする折ふし、暴雨にて、堀川の水たちまちまし、漲り落る音、高く聞こえけるを、老母きゝて、窮楽をよび、何の音なりやととふ。窮楽ねんごろに、其のよしを述て、水音なる事をこたふ。母さてはさにありしよとうちうなづく。窮楽席にかへりて、間もなく、母窮楽をよぶ。あとこたへてたゞちにゆく。あのどふどふといふは、何の音なりやととふ。窮楽つゝしんで、あれは堀川の水まして、漲り落る音にて候と、はじめいひしごとくこたふ。母笑ひて、さてはしかるやといへるにぞ、またかへりて客に対するに、また窮楽とよぶ、声の下よりたちてゆくに、母とふこと同じく、こたへもまたはじめのごとし。客驚きて、などて数度同じ事をなしたまふぞ。さきにこたへしと、いひ切たまはぬといへるに、窮楽かしらうちふり、いや、さにて候はず。母老いて病にをかされ、聊耄せしやうにて、たゞ今問し事をも打忘れ候故、いく度問れ候も、みなはじめてとふ心にて候ほどに、こなたも、はじめて承り候心にてこたへ申候よといひけるにぞ、客も大に感賞せしとかたらる。 (Y.H記)
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<画像内の文章読下し(知人に依頼)>
味噌搗(つか)ず
肴むつかし
米いらず
人生は
貧に酒々
ちょこちょこ